いよいよパタゴニアの象徴ともいえる、フィッツロイ(Fitz Roy)へ。
そしてこの日は、人生でも忘れられない日になった。色んな意味で。
バリローチェからの夜行バスで半日かけてカラファテに来た。
着いたのは朝6:30頃。
まだまだ暗い。
バスを降りた瞬間、想像以上の寒さに凍える。
冬山装備8割くらい着ているというのに。
でも早朝なのでバスターミナルは開いていない。
チェックインには早すぎるので、バスターミナルが開くまであと30分待とうかとも思ったけど、みんな町の方に向かっていくのでわたしも早々宿に行くことにした。
レセプションは開いていそうだし。
今日泊まるのはPatagonia Hostelという所で、天候次第では今日そのままトレッキングをスタートして山で泊まる予定なんだけど、どっちにしろここの宿はトレッキングをしている間荷物を無料で預かってくれるとのことだったのでここにした。
エルチャルテンの宿は、安宿だと基本的に荷物預かりだけでチャージされる。
いくら部屋が安くても荷物代を多く取られたら意味がないので、ドミで$16だけどここに決定(エルチャルテンは物価が高いので、最安値でも$14ほどするので結局変わらない)。
宿に着いたら、やはりチェックインは13:00まで出来ないと言われた。
***
とりあえず天気予報を見つつ朝ごはんを作っていると、日本にいる相方から「話したいことがある」との連絡が。
電話がいいとのことだったから、なんとなく覚悟はしていたけど、予想は的中した。
関係を絶ちたいとのことだった。
8年以上も付き合っていて、昔から同じ将来を描いて歩んできたけれど、だんだんわたしとの将来への想いが薄れ、自分でやりたいことを優先させたいとのこと。
前も何回か話したんだよね、この話。
わたしは彼を置いて勝手に世界一周するわけだし、将来また一緒になれたらいいけど、人間考えは変わるものだから「何かあった時」の覚悟はしておこうと。
覚悟はしていたとは言え、人間そう簡単には現実を素直に受け止められないもの。
何も言えなかった。電話越しで。
ひたすら彼の話を聞いて頷くのみ。
色々と伝えたいこともあったけど、何があれって、宿のWiFiが究極に弱く、かろうじて電話が出来たのがレセプションの前。
みんなが居る所で泣きたくないし、見るからに日本人っぽい人も居たから何も話したくなかった。
何か話したら絶対泣くから。
結局何も言えないまま、涙がこらえきれず、電話を切ってトイレに駆け込み、声を押し殺して泣いた。
絶望的だった。
「ああ、どうしよう。これからどうやって生きて行こう。一番大きな将来の夢が消えた今、旅をしていても楽しくない。もう旅なんていい。やめてしまおうか。でもやめた所でどうしたらいいんだろう。何を楽しみに生きて行こう。あー、もう誰も愛せないだろうな。結婚もしないだろうし。子供欲しかったな。お父さんに孫の顔見せられないのか。悲しむだろうな。」
そんなことが頭の中をぐるぐるぐるぐる。
正直フィッツロイのトレッキングさえもどうでも良くなってきた。
でもとりあえず、今日このまま丸一日宿にいても泣き続けるだろうし、どうせなら一人で思いっきり泣きたいので、トレッキングに行くことにした。
何もせずに宿にこもっていたら、本当におかしくなってしまうと思ったから。
山を歩き続けて、少しでも無心になりたかった。

急いでパッキングをしなおし、準備が出来たらいざ出発。
天気は夕方から明日にかけて回復に向かうみたいだ。
トレッキングを開始するやいなや、さすがフィッツロイ、常に絶景が拝めるトレイルだった。

「ああ、あなたと見たかった。」
そう思うと涙が止まらない。
必死に涙を拭う。
とりあえず進もう。

トレイルにはたくさんの大きなキツツキ(小学校の図鑑で見るやつ)がいて、上空にはコンドルが飛んでいた。

どんなに辛いことがあっても、世界は変わらず動いていくんだなって思った。
自然はいつも変わらずそこにある。
トレッキング中何度も泣いて、嗚咽が出るほどだったけど、地味に反対側から来るトレッカーもちょこちょこ居たので、その度に目を擦って挨拶をするのが辛かった。
目を真っ赤にさせていたから、みんなに変に思われただろうな。ああ、辛い。
***
トレッキングルートは、今日Poincenot(キャンプサイト)で泊まり、明日朝日を見てからDe Agostini方面へ抜け、エルチャルテンに戻ってくる縦走ルート。
エルチャルテン=Smoky Mountainという意味が示すように、フィッツロイと言えばいつも雲がかかっていて、真っ赤に染まる朝焼けは相当ラッキーでないと見れない。
宿の人には「今日行っても何も見れないわ。朝日は見れるかもしれないけど。天気は明日がベストよ。」と言われたけど、天気予報とにらめっこして「赤いフィッツロイを見るなら今日でた方がいいな」と判断して出た。
これが正解だった。

キャンプサイトについてテントを貼ったら、翌朝のルートを確認がてらビューポイントまでお散歩。
最初は曇っていたから最後まで行く気なかったけど、次第に青空の割合が増え、フィッツロイの方面が晴れてきた。
キャンプサイトから1時間、山を越えるとそこには見事なフィッツロイの姿が。

風もほとんどなく、相当めずらしいのか地元の人もたくさん登って来ていた。
「今日・明日は最高だよ!こんな日めったにない!」
悲しむわたしを励ますかのように、その姿を見せてくれたフィッツロイ。
ご褒美を貰えたと思ったら、ちょっと気が休まった。
暫く眺めたら、下まで降りてもう一つの湖まで。
こちらは日が差し込んだらエメラルド色になるけど、もう夕暮れなのでまた明日見に来よう。
ビューポイント付近は雪が積もっており、太陽の日差しのよってビシャビシャに溶けていたので、明日の朝は全面凍っているだろうな。
気をつけないと。

キャンプサイトに戻って夕ご飯(出国以来バックパックに温存してきたやつ)を作り食べていると、一人の日本人男性から「日本人ですか?」と声を掛けてもらった。
ドレッドの大阪人の竜さん、その彼女のクミさんと、途中で会ったヒロミさんの3人。
ちょっとお話して気持ちが楽になった。
その後、すぐ近くにテントを立てていたもう一人の日本人、シュウヤくんにも竜さんが声を掛けていて、ペリトモレノ氷河やらパイネ国立公園の話をしていた。
普段は自ら日本人に話しかけることはあまりないけど、「ああ、わたし人と話さないとだめかもな」と思って声を掛けてみた。
3人で暫く話し、竜さんがテントに戻った後もずっとシュウヤくんと話してた。
「明日絶対フィッツロイ赤く染まるっしょ!インスタント麺持ってく?寝袋あった方がいいかなー」とか。
そしてこの時、空は快晴だったので2人で星を見に行ってみることにした。
この時見た星空が、人生で見た中で一番綺麗だったかもしれない。
星空を綺麗に撮れるカメラがなかったから伝わらないけど、月はなく、あたり一面に無数の星がきらめいている。
綺麗な星空は世界中で見てきたけど、天の川のきらめきも、普段は星が少ない方も、これでもかってくらいに星が散らばっていた。
2人ともずっと真上を見上げる。
何回も流れ星が通った。
宇宙好きの2人。
天文学やら量子力学やらの話をしながら。
つい2日前、わたしの「一番尊敬する人」の一人で、理論物理学者であるホーキング先生が亡くなったばかりだけど。
彼も言っていたな。
星空を見上げることを忘れてはいけないって。
今ひしひしと彼の思いを感じてる。
***
シュウヤくんとはこの後も、何日か一緒に行動することになるんだけど、後から聞いたら「最初キャンプサイトで見た時、日本人っぽいから声掛けようと思ったけど”話しかけないでオーラ”みたいなのが出てたから遠慮した」らしい(笑)
そりゃあそうです、史上最大の絶望にぶちあたっていたものですから。笑
でも本当に声掛けてよかった。
本当に面白くて、常にお腹抱えて笑わせて貰ってる。
こんなに笑ったの久しぶりってくらい。
たくさん元気もらったし、エネルギーチャージ出来たし、ついさっきまであった不安なんて一瞬でどこかにいってしまった。
いつも旅人に助けられてる。ありがとう。
わたしもみんなに元気をあげなきゃなって思う。
みんなとの出会いに感謝。
***
そして翌日。
5:30に起きて、出発の準備。
日の出は7:46だったので、6:00に出れば余裕なはず。
ただ早く出すぎると、極寒の中で朝日を待たないといけないので、防寒対策はばっちりで行った。
手ぶらで行けたらいいけど、フィッツロイの朝日見ながらインスタント麺食べたかったし(笑)その為には水も鍋もいるし。
真っ暗な中、つるんつるんに凍った山道を登ることを考えると、両手は確実に開けておきたい。
小さいリュックは宿に置いてきているので、仕方なくバックパックの中身を開けて、必要なものだけ持って登ることにした。
ちなみにPoincenotからビューポイントまでの登り約1時間、色んなブログで「ここの登りがきつい!」って書いてあるけど、全くそんなことはありません。
普通の登山です。
多分、フィッツロイのトレイルがほぼ登りがないからそう感じるだけで、登山だと思えばただの登り。
トレッキングした事がない人はそう感じるかもだけど…
手を使うようなところもないし、人並みの体力があればあっと言う間に終わります。
ただ、予想通り上の方はツルッツルに凍ってた。
ビューポイントまでの登りは沢登りみたいに、常にトレイルに水が流れているので、冬になるにつれどんどん凍っていくので危険。
登っている途中、まだ7時にもなっていないのに東の空は明るくなり始めていた。
ビューポイントに着いた時には、フィッツロイは暗いオレンジに輝いていて、今にも赤く染まりそうだった。

「朝日までインスタント麺でも作って待ってよー」とか呑気なこと思ってたけど、いつ朝日が登ってもおかしくなかったので、先にカメラを準備することに。
iPhoneでタイムラプス撮りつつ、一眼で写真を撮って、万が一のためにGoProも回しといた。
西側の稜線が明るくなり始め、徐々にフィッツロイが色を変え始めていく…

稜線にちょっとだけ雲がかかっていたから、日の出とともに一気に真っ赤にはならなかったけど、暫く待つとフィッツロイが燃えるような赤に…

すごい。。。。
本当に見れると思わなかった。。。
雲がないだけでも奇跡なのに。。。。
綺麗。。。。。
iPhoneは寒さで何回もシャットダウンしたから、途切れ途切れのムービーになっちゃったけど、それでも真っ赤に染まるフィッツロイが撮れた。
フィッツロイが赤から白になったところで、お待ちかねのインスタントラーメンパーティ。
よっしゃあ!と思って準備していると、お隣で調理準備をしていたシュウヤ兄さんが取り出したのはなんとサッポロ一番…!!!!
やられた……
フィッツロイの朝焼けを拝みながら食べるラーメンなんて、何でも最高だと思っていたわたしがバカだった。。。
日本出国以来温存していたみたいで、麺はだいぶ粉々だけど、サッポロ味噌らーめんなんて、、、なんて贅沢なんだ、、、、
しかも兄さん七味も持ってたし。
何でも持ってるこの人。
何なんだ。
わたしも次は見習って準備万端にしよ。

でもやっぱり、寒い中フィッツロイを拝みながら食べるラーメンは最高でした!
ラーメン出来上がるまで味噌汁作って飲んだりして。
贅沢だったあ。
フィッツロイでご飯食べるためにまた来たいなw

途中、風がなくなって鏡張りになったり!
本当についてる!
昨日みたいに湖まで降りても良かったけど、下坂全面凍っていて危険だったのでそのまま下山することに。でも本当に素敵な朝日だった。

キャンプサイトに戻ってからもずっと晴れていて、青空に映えるフィッツロイも見れた。本当にいいお天気で、暫くゆっくりしてた。

2人ともこの後De Agostini(キャンプサイト)に抜ける予定だったけど、明日から天気が崩れるらしいので天気がいいうちに町に降りることにした。

De Agostini方面のトレイルも綺麗だった。
振り返る度にフィッツロイが輝いていて、何度も同じ写真を撮ってしまうほど美しかった。
夢みたい。
フィッツロイとはまた異なった景色が見れたり。
天気最高だし。

兄さんは「町に帰った瞬間にビール」という信念のため、喉乾いても「ビールのために節水する」と水を我慢してた。
素晴らしい拘り。
疲れている分帰路は長く感じて、2人とも「ビールの匂いまだしないね」と、HP下がりっぱなし。
日が出ているうちに戻らないと、寒くてビールどころじゃないので「体あっためておかないと!危険だから!」とか言いながら、帰路を急いだ。
明日は一緒にカラファテに向かうので、町に着いたら「先にチケット買いにいく?それかキャンプサイトでテント張ってから?」とか話してたけど、結局キオスクの前を通ったら我慢できずにビールwww
アルゼンチンもビールの種類が豊富なので悩んだけど、この2種類に❤️
おいしかったー❤️

それからキャンプサイトに向かい、テントを張ってからバスターミナルへ。
チケットを買ったら、そのまま夕ご飯に向かうことにした。
2人とも基本的に、美味しいご飯のためなら出費を惜しまないタイプなので(¥10でも節約するために、美味しくないごはん食べて「やった〜」って喜んでいる旅人は理解出来ない)、今日は美味しいお肉とワインとビールを飲みに行くことにした♩
シュウヤ兄さんは「肉が食べたい!」らしいので、パタゴニアでよく見るラムの丸焼き(ラムの開き?笑)をやっているお店へ。
なんとここはビールのブリュワリーでもあるってことで、即決定。
お店もいい感じ♪
…今気づいたけど、写真全然撮ってなかった😂
ハッピーアワーってことで、地ビールを2杯(美味しかった!)飲んだら、赤ワインをボトル注文することになった😍
そしてもちろんパタゴニアのワイン😍しあわせ💖
兄さんはお酒強いけど(わたしが寝たあとビール2本買って飲んでたw)、わたしはいい感じに気持ち良くなって、一瞬で寝た。
寝た時の記憶がないww

ああ、本当に素敵な2日間だった。
初日は彼氏と別れてどん底だったのに、自然に囲まれて、素敵な人たちに会って、いっぱい笑って、美味しいもの食べて。
初日の涙が嘘みたいに、今はすっきりした気持ち。
みんなありがとう。

やっぱり、どんな辛いことがあっても、いつでも素敵な出会いと自然が癒してくれるんだなあと。
毎日晴れてくれて、素敵な出会いもくれて、ありがとう、パタゴニア。
初日の出費:¥1,700(宿代$16)
2日目の出費:¥4,110
・食費:AR530
・宿代:AR180
・ビール:AR90


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